腹に響く炸裂音とともに、開いては散る花火を真剣に見つめる、その姿を目に焼きつけた。
暗い夜空を背景に、鮮やかな花火に照らされた精悍な横顔に。
色を変えては尾を引いて落ちてゆく火に照り映える左のピアスに。
今なら言える。今しか言えない。
「好きだ」
轟く音に紛れさせて、聞こえないように。
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色とりどりの光を夜空にぶちまけて咲いては消える花火を見るフリで、傍らの金髪にどうやって手を伸ばそうかと考える。
次々と打ちあがる花火の爆ぜる音にイカれかけた耳に、不意に。
好きだ。
鳴りやまぬ轟音に紛れることなく届いた微かな一言は、ひときわ鮮やかに閃く花火のようで。
黙って手をつないだ。
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ふいにつながれた手の感触に心が震えた。
握られた指先のその先を、そっと見やれば夜空に百花繚乱と咲く花を見ていてほっとした。
色を変える光が端整な横顔を照らしては影を作る。
触れた部分が心臓のように激しく脈をうつ。
今、目が合ったら息が止まる。
だからどうかこのままで。
ただ手を握り返した。
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ふりほどかれない手が雄弁な答えだと思った。
きゅ、と縋るように握り返された手に心臓を鷲掴みにされる。
こっそりと窺えば、何かを耐えるように唇を引き結んで、夜空を見上げていたから、おれの方に振り向かせたくなった。
この夏、最後の花火に気持ちを託して一歩近付く。
その頑なな口元が綻べばいい。
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最後の花火が金色の長い尾をひいて消えると辺りは暗闇に包まれた。
鮮やかな光に満ちた幻のような時間が終わる。
つながれたままの手は夢の名残みたいで、現実に戻るのが惜しくて目を閉じた。
ふいと温かなものが唇に重なり、掠れた低い声が名を呼んだ。
目を開けても消えない夢に。
ほどける心、緩む口元。
end