green

 

「あら」
「どうしたの、ロビンちゃん?」

花壇の手入れをしていたロビンが思わず発した声に、素早く反応したサンジは、彼女の手元をのぞきこんだ。ロビンが大事にしている花壇の片隅に植えられていたブルーベリーの葉が虫食いにあって穴があいている。

「昨日はなかったのだけれど」
ロビンがほっそりした指でそっと葉を裏返すと、孵化したばかりと思しきごく小さな幼虫が一心不乱に葉を食んでいた。

「うわ、なんの幼虫だろう」
虫の類が得意でないサンジがこわごわとその様子を眺める。ロビンの前とあってはあからさまに怖がるわけにもいかず、精一杯平静さを保とうとしているが、腰が引けている。

「蝶じゃないかしら。何日か前に姿を見かけたわ。卵を産みつけてまだどこかへ行ってしまったのね」
「……不思議だなあ」
一時も休むことなく葉を食べ続ける幼虫を見てサンジがつぶやく。
「そうね、海の上なのにどこから来たのかしらってわたしも不思議だったわ」
ロビンはサンジの言葉に相槌をうちながら、苦手なくせに目をそらしもせず虫をじっと見つめるサンジの姿に、ひょっとしてこの子は、お腹をすかせていれば、人間や動物だけではなくて虫でさえも放っておけないのかしら、と気になった。

「うん、それもそうなんだけど」
サンジがロビンを見上げて言う。

「ロビンちゃんの花壇、いろいろな種類の草花が植えてあるだろ?あっちにはウソップの畑もあるし」
サンジは言葉を継いだ。
「こんなにたくさんある葉っぱの中から、ちゃんと自分の餌とすべき正しい葉っぱを選ぶのが不思議だなって思ってさ。蝶から見たら、全部同じ緑の葉っぱだろうに」
「ああ、そうね」
ロビンはにっこりと笑った。

数多の中から自分に必要なものを選ぶ、それは生き物が持っている本能。間違いのない自然の摂理。

「自分にとってふさわしいものを選ぶ、それが生物にとってとても大事なことだから、生き残るための本能として、誰もが大事なものを選ぶ力を持っていると思うの」
「そうかな」
「そうよ」
ロビンはまっすぐにサンジを見た。

「蝶は、子孫を残すための葉を選ぶ。私は、選んだわ。数ある船の中からこの船を。あの船長を。あなたたちを」
「ロビンちゃん……」

きれいな笑顔を浮かべるロビンを、サンジはどこか眩しいものを見るような目で見つめた。が、ロビンと目が合い、それを気づかれた途端、いつものようにメロメロと相好を崩してみせた。

「ああ、やっぱりロビンちゃんは知的で素敵だー。おれは、人生における唯一の知恵の女神としてロビンちゃんを選ぶよー!」
「ありがと」

サンジの過剰なまでの称賛を軽く受け流しながら、「あなたも正しい緑を選んだじゃない?」と言おうか言うまいか、ロビンは少しだけ迷い、口に出したら可哀そうだから心の中で呟くにとどめた。

end