***(同窓会のその後)***
同窓会の場所から電車で3つ目。
そこから10分ほど並んで歩いてサンジのアパートに着いた。
あまり話はできなかった。
時々、確認するように、どちらからともなく、顔を見合わせた。
「どうぞ。狭えけど、一応俺の城」
「おう、お邪魔します」
1DKの10畳ほどの部屋。
「ゾロ、座ってな。なんか飲みもん…コーヒーでいいか?」
「ああ、貰う」
「一人暮しか?てっきり実家だと思ってた」
「あー。ちょっと来いよ、こっち」
サンジはベランダにゾロを呼んで、ある方向を指差した。
「ほら、見えるか、魚みてぇな看板」
「ああ、見える」
「あそこが実家。もう灯りが消えてっけど、ジジィのレストランだ」
「おまえが高校の頃に話してた店だな」
「……覚えてんだな」
「ああ。火傷に切り傷だろ」
「おまえは剣だこな…」
顔を見合わせてくすりと笑うふたり。
ゾロは優しい目でサンジをじっと見ている。
「…あー、コーヒー!もう飲めるぜ」
「おう」
何となく、火照った頬を隠すようにキッチンに戻るサンジ。
コーヒーを飲みながら、お互いの近況をぽつり、ぽつりと話すふたり。
サンジは祖父のゼフが、住み込みの若いコック見習いを雇った為に、実家を追い出されたこと。
ゾロは、慣れない地で始めることの大変さを知り、1年間帰省せずに、必死で剣道に打ち込んだこと。
「あ。ゾロ…待ってな」
タンスの引き出しから小さな箱を取り出して、それを開けるサンジ。
中に入っていた金のボタンをゾロに渡す。
ゾロも立ち上がり、サンジと目線を合わせる。
「ゾロ」
「ありがとう、サンジ」
「うん。俺も…ありがとう、ゾロ」
サンジはポケットからゾロに貰ったボタンを取り出して見せる。
ゾロはその手に触れながら、顔を近づけた。
サンジの唇にそっと唇を重ねる。
たった3秒のキス。
でもそれは4年越しの想いをいとも簡単に飛び越えて、ふたりの中を満たしていく。
「サンジ」
「ゾロ…もう泣かねぇよ…へへ。嬉しいもん」
「サンジ、好きだ。ずっと好きだった」
「ゾロ。俺も…俺もずっと好きだ」
サンジが、視線を壁の時計に移す。
「ゾロ、明日の朝、何食いてェ?つうか、明日もこっちにいれんだろ?」
「そのつもりだけど…泊まってもいいのか?」
「はは…ちっと緊張するよな。…ゾロが嫌じゃないなら、泊まって欲しい」
「俺はおまえといたいから」
じっとゾロを見つめるサンジ。
「ん…とさ。実は今日…もう過ぎたよな。3月2日だ。俺の誕生日」
「!そうなのか!……サンジ、おめでとう」
ゾロはサンジを見つめ、額を合わせた。
「サンジ」
額を離したゾロは、サンジの唇に親指を付けて少し開かせた。
サンジの少し開いた唇に、ゾロはさっきよりも強く口づけた。
舌をするりと入れながら、サンジの金色の髪に触れた。
サンジもそれに答えるように。
桜の木の下で初めて見た、あの一瞬を思い出しながら、ゾロの緑色の髪にそっと触れた。
2度目のキスはお互いを確かめ合うようなキスだった。
何度も角度を変えながら、その度に、お互いの顔を見て、確認しあうような。
舌を絡めながら、ゾロはサンジの髪や、耳朶に触れる。
サンジもゾロの背中を撫でながら、時々ぎゅっとシャツを掴んだ。
「…っ、ゾロ…もう無理…」
「…了解。これで最後にする…」
ゾロはサンジの頬を両手で支えて、ちゅっと、啄むようなキスをした。
やっと離れたふたりは、荒くなった呼吸を戻すように照れた笑いをしながら少し距離を取った。
「おまえ、風呂入れば?」
「俺は別にいい」
「……あのさ、ベッド…予備の布団もねぇんだよ。一緒に寝るしかねェから …俺以外と潔癖症なの!」
「…俺、臭せぇか?」
「そーゆう問題じゃなくて!寝る前には1日の垢と疲れを落とさなきゃ寝れねぇの、俺!隣に寝るおまえも一緒!」
「…了解」
「ぷっ…!なんだその顔。おまえ結構、子供っぽいのな」
「るせーよ…緊張もしてんだよ」
突然じわっと赤くなるサンジ。
「おまっ…!風呂に入るって…そ、そう言う意味じゃねぇぞ!」
「違うのか」
「だーっ!おまえ直球だなー!…ははっ、面白れぇ。ほれ、先に入って来いよ」
とん、とゾロの背中を押すサンジ。
「おう」
「スイッチ、上のやつな。シャワーだけでいいか?」
「充分」
ゾロの背中を見送りながら、ホッと息をつくサンジ。
(ヤベぇ…あんなキスの後に、ベッドに直行なんて無理…。まだ信じられねぇよ、ウソップ。おまえってエンジェルだったんかよ)
サンジはゾロに触られた頬や耳朶を擦りながら、床に座り込んだ。
(俺の誕生日…俺、どうなっちまうんだろう。ゾロに告られて、キスして、そんで…無理無理無理!まだ…まだってなんだよっ)
シャワーの音を聞きながら、床でひとりごちるサンジだった。
10分もしない内にゾロが出てきた。
サンジが用意したスゥエットはかろうじて入ったようだ。
「おまっ…」
「あ?洗ったぞ。疲れも取ってきた」
「はえーよ……まぁ、いいだろ。髪、乾かせよ。先に寝ててもいいぜ…」
寝てても…が少しぎこちない言い方になってしまった。
用意していた着替えを持って、横を通るサンジの、手首を掴むゾロ。
「待ってる」
「…!あ…うん、わかった」
ゾロが離した手首を擦りながらサンジは浴室へ向かった。
(あー、もう駄目だ…俺の心臓おかしなことになっちまってる。助けて、ウソップ…いや、違うだろ!ジジィ…もっと違う!…あー、もう誰でもいい!あー、ゾロでもいい…俺を助けて…)
サンジは温めのシャワーで、火照りを鎮めようとした。
無理だった。
浴室を出ると、ゾロは椅子に座ってスマホを操作していた。
「ウソップからだ、おまえと一緒だと返事した」
「…!なんでウソップが…わ、わざわざ…」
「俺がいきなりおまえを追って、席を立ったからだろ。金も払ってねぇ」
「…………」
「おまえと一緒だと返したら、明日、朝早ェみたいだから、早く寝かせてあげろだと。そうなのか?」
「…あー、実は明日はオフだ。土曜はいつもは早番で入ってんだけど、金曜は同窓会だって言ったら、ジジィがたまには羽伸ばせって。学校と店の手伝いで、この1年、まともに休んでなかったからな…気を遣ってくれたんだろ」
「要は明日も俺といれるってことだな。寝坊もできる」
「…うん」
顔を見合わせて笑い合った。
ふたりはセミダブルのベッドに入った。
緊張してるらしいサンジの手を握るゾロ。
「こうしてていいか?」
「…うん」
「おやすみ。サンジ」
「…ゾロ…?」
「なんだ?」
「…その…いいのか…このままで…?」
「…ああ、今日はこれでいい。おまえは?サンジ」
「俺は…ゾロが望むように…したい」
ゾロはサンジの頬を軽くつねった。
「いてーな!何だよ、ゾロっ!」
「おまえが煽るからだ、このっ」
「だから、いてえって!」
サンジもゾロの頬をつねり返す。
その手を握りながら、サンジの頭を抱き、額にキスをするゾロ。
「今夜はこれでいい。充分だ、サンジ」
「ゾロ」
「あー、実は…な。さっき風呂でヌいて来た。あのままじゃ、我慢できねぇと思ったからな」
「…!」
「仕方ねぇだろ。あんなキスをしちまったら。我慢できるか…!」
「自分からやったくせによ。ぷっ…実はなゾロ、俺もヌいてきた!ぷーーっ!」
「はぁぁ?マジかよ…はははっ」
ふたりは、暫く笑い合った。
「サンジ」
「ん?」
「次は…いいか?俺が、その…おまえを抱きたいんだけど」
「ゾロ…次は抱き合いたい、おまえとひとつになりたい、ゾロ」
「サンジ」
「今日は俺が抱きしめていいか?大好きなおまえの背中を抱いて寝たい」
「ああ、いいよ」
「うん」
ゾロはサンジに背中を向けた。
サンジは、ゾロの肩に顔を乗せて、背中に胸を押し付けた。
手を繋ぎ合う。
「あ~、ヌいてて良かったぜ…少しヤバい」
「へへ。俺も……おやすみ、ゾロ」
「おやすみ、サンジ」
5分もしない内に、寝息が聞こえてきた。
ほぼ、同時だった。