4月9日、晴れ

4月。

配属されたばかりで何一つ業務を知らない新人の最初の仕事は花見の場所取りと決まっていた。
引越のトラックが行き交う幹線道路を渡り、交差点をいくつか越えて東京タワーの足元にある公園にたどりつく。枝ぶりのよい桜の下にブルーシートを広げるとゾロはごろりと横になった。

青い空。白い雲。薄桃色の桜。

見上げた太陽がまぶしくて目を閉じる。
宴会まではまだ数時間もある。耳をすませば、遠くを走る電車の音、空高く飛ぶ飛行機の音。都会の喧噪にまぎれてかすかに聞こえる葉擦れの音、風の音、鳥のさえずり。
それから。

「なにやってんだ、オッサン」
閉じた瞼ごしの日差しが遮られたと感じたのと同時に、上から若い声が降ってきた。いい気分でうとうとしかけたゾロは、目を開けるのが億劫でそのまま答えた。

「待っている」
「何を?」

不思議そうに問い返され、自分の無愛想な返答にも引き下がらない相手はどんなヤツだろうかとゾロはゆっくりと目を開けた。

青い瞳。白い肌。薄桃色の頬。

真新しそうな制服を着ているから、どこかの高校の新入生なのだろう。日の光をはじく金色の髪と同じくらい、生き生きとしたオーラをまとった姿がまぶしくてゾロはもう一度目を閉じた。

「オッサン、寝るな!」
とがめるような声だが不思議に耳に心地よい。
口の端に自然に笑みが浮かび上がる。
上体を起こして真正面から少年を見つめた。少年の風変わりな巻いた眉を見て、ゾロは言い直した。
「待っていた」
「何を?」

ーー おまえを。
おまえに会うのを。

 

end