「海のコックを探そう」
次の仲間は海のコックだとルフィが宣言していた通り、コックが五人目の仲間になった。
宝の持ち腐れに等しかったメリーのキッチンが使われ出した途端、おれ達の食生活は一気に改善された。
見たこともないような料理が並び、聞いたこともないような料理の名前が告げられる。
味は、正直言って悪くない。というか、むしろいい。尤もそんなことをわざわざコックに言うのは、ただでさえ生意気なコックをつけあがらせるだけなので黙っている。コックの本職はコックなんだからメシがうまいのは当たり前で、言う必要もねェだろう。
とはいえ、ほかの連中のように諸手を挙げてコックの作るメシを歓迎しているかと訊かれたら、ちょいとばかり返答に窮する。味に不満があるわけじゃねェが、ヤツの作るものには違和感があるというか、しっくりこないときがあるというか。ありていに言えば、コックの作るメシは、おれにはフクザツ過ぎる気がするってことだ。
例えば焼き魚。魚など焼いて塩ふって食うので十分……いや大根おろしは欲しいが、魚は塩焼きが一番ウマいとおれは思っている。香ばしく焼きあがったばかりの魚にたらりと醤油を落として食えば、白飯は何杯でもおかわりできるってモンだ。それなのにコックが出してきた焼き魚はそうじゃなかった。何かが違った。もちろんおれに何かがどう違うなんて分かるはずもねェが、とりあえずなんだか匂いが違うし単純な塩焼きでないことくらいは分かる。
ウメェウメェと言ってものすごい勢いで平らげていくルフィと、ルフィに負けじと口に詰め込むウソップの様子を見れば、嫌でもコレは美味いんだろうと知れた。が、おれの口は、あの醤油のかかった香ばしい魚の味を期待していたから、なんとなく箸をつけるのがためらわれた。好き嫌いがあるわけじゃねェが、そもそも知らないものに関しては、食べ物に限らず警戒する方だ。と言ってもグズグズしていたらルフィに残らず食われてしまう。
「単なる焼き魚だけどサンジが作ると全然違うよなあ。焼き方か? 塩加減か? この大根おろしがいいんだよなぁ」
「おー、鼻! よく分かってるじゃねェか。おれは海の一流コックだからな。焼き加減も塩加減も完璧だ。この魚はちょっとクセがあるから、食べやすくなるように大根おろしには隠し味でオリーブオイルを合わせてある」
「へー」
大根おろしにオリーブオイル?
なんだそりゃ。オイルってことは油か? おれは食材に詳しくねェが、ガキの頃からよく喰っていたからこの魚は知っている。サバだ。脂ののったサバの塩焼きは非常に美味いが、脂が多い魚に油をかける意味がわからん。なんだってわざわざそんなことを。余計なことをすんじゃねェ! という気持と、ルフィ達の食べっぷりから察せられる美味いであろう食べ物への興味と、未知の味への警戒心と、たかが食い物如きに心を乱される己の不甲斐なさに襲われて目の前の皿を見下ろした。
「てめェ、食わねェの? 腹の調子でも悪ィのか?」
「いや、べつに」
コックがひょいとおれの顔をのぞきこんだ。どう考えても眉毛が変だ。険のある口調や顔つきではなかったから喧嘩をふっかけるのは控えたが、コイツが元凶だと思えば実にムカつく。コイツの存在にはまだ慣れない。なんつーか、胡散臭いし鬱陶しい。しかし、ここでコックに何を言ったところで状況が変わるわけではないし、毒を食らうわけでもない。気乗りしないまま、箸の先で魚の身をほぐし、添えられた件の大根おろしと一緒に口に運んだ。
……ん?こいつァ……。
醤油と大根おろしだけでは叶わない深みのある味わい。ちょっとクセのあるサバの味がイイ感じに和らげられている。くどくなりがちな部分が抑えられ、旨味が引き出されてる。これは美味い。たしかにこれは、おれが今まで知っていたサバでも期待していた味でもねェ。だが、間違いなく焼き魚だし、これはこれで白飯がすすむ。畜生。おれはコックに騙されてんじゃねェのか。まったくもって納得いかない。
「サンジ君、ほんとすごいわね。どうなってるのかしら。あんなに安かった魚がこんなに格段においしくなるなんて。」
「ナミさんのお口にあって光栄でっす!」
ナミの言葉にコックが鼻の下を伸ばしたまま骨のないタコのように体をくねらせた。
どうなっているのかは、おれも聞いてみてェもんだ。あの金髪コックの軽そうなオツムの中身を。