slip

ぐしゃぐしゃに乱れたシーツ。破けた穴から白い羽毛が飛び出た枕。ベッドカバーもベッドスローも床の上で丸まっている。久しぶりの陸で、久しぶりにゾロと二人だけの部屋だったから、まァ盛り上がっちまった自覚はある。それにしたって、体がだるくて動かない。

「やり過ぎだ。このタコ」

言おうとした声さえ掠れて言葉になりゃしねェ。
おれの顔を覗き込んでいたマリモがボトルに入った水を寄越す。珍しく気が利いたことをするから、ついでとばかりに辛うじて動く手で煙草のゼスチャーをしてみせる。マリモはサイドテーブルの上に乗っかったままの煙草のパッケージを掴んでいそいそとおれに差し出した。妙に甲斐甲斐しくもある姿に、ちょっとばかり気分が上向くが、つけあがるのが癪だから顔に出さない。火をつけて深々と煙を吸い込む。ニコチンが体の隅々にまで行き渡る感覚に生き返る心地がする。一番うまい朝の一本をゆっくりと味わう。隣のマリモが神妙な様子なのが可笑しい。ここまで徹底的にヤッたのも、おれのこんな状態も初めてで、どうしていいのか分からなくて困っているんだろう。所在無さげにもぞもぞ身じろぎしてたかと思ったら、

「好きなだけ蹴れ。気のすむまで殴れ」

……くだらねェことを。気持ちが冷える。分かってねェ。一瞥をくれて黙って煙草を吸う。

てめェががっついて無茶したせいで足腰動かねェのに蹴れっかバカ。大事な手で殴れるかアホ。ついでに色々と喘がされたせいで声も出ねェよボケ。

心の中で悪態をつく。おれがやめろと言ったにもかかわらず、てめェが散々無体を働いた結果がこの惨状ではあるけれど、目には目をじゃあるまいし蹴る殴るでチャラにするもんじゃねェだろが。これだから筋肉バカは。ちらりと横目でうかがえば、おそらく自身の失言に気付いたんだろう、眉間のあたりに情けなさが漂っている。しょうがねェヤツ。

吸いさしを灰皿にねじ込み、指先でちょいちょいと手招きする。のそのそと近づいてきたヤツの広い額を人差し指で力いっぱいはじいてやった。

「てッ」

マリモが額を抑えて身を反らす。

「だははははは」

ざまあみろ。かすれ声で精一杯笑ってやればあっという間に凶悪な顔したマリモに押さえこまれた。

「もっと犯すぞ、コラ」

酷い言葉とは裏腹の、真上から見下ろされる目に浮かぶ畏れを払拭してやるように手を伸ばし、よく知った厚みの体に腕をまわす。失言はデコピン一発でチャラにしてやる。

分かってるだろ。殴れなんて言うなよ。

料理人の大事な手は大事なものを抱きしめるためにあるんだ。

 

 

end