サンジが先に目を覚ました。
背中に回る逞しい腕。
額にかかる規則正しい寝息。
そっと、視線を上にずらすサンジ。
「ゾロ」
思わず漏らした声。
サンジは、うっと、緊張したが、ゾロはまだ起きない。
(そっか…夢じゃねェな。いや、夢のようだぜ、ウソップ…)
心の呟きに笑いを堪えるサンジ。
(ほんものだな…睫毛…長いかも。好きな鼻筋…と…唇…っ)
昨日のキスを思い出し、体が熱くなるのを感じるサンジ。
思わず、上半身を起こした。
つられるように、ゾロも目を開けた。
「…サンジ?」
「…!ゾロ、悪ィ、起こしたか?」
「あー、いや…もう起きる」
ゾロも体を起こしてサンジと目線を合わせる。
以外にも寝起きの良いゾロ。
ちょっと引いたサンジの後頭部をやんわり引き寄せて、その唇にゾロはキスをした。
1度離して、サンジの額に軽くキスをして、もう1度――。
今度は押し付けるように口づけ、軽く開いた隙間に舌を滑らせた。
昨夜とは違う、朝の薄明るい部屋の、ベッドの中でのキスは、ふたりの呼吸を早急に荒くしていく。
ゾロの片手が、サンジの耳朶を触りながら、もう片方で腰を引き寄せる。
サンジもゆるゆると、ゾロの背中に腕を回した。
ゾロの唇が、サンジの耳朶に移動して、軽く口づけたあと、耳のつけ根にもキスを落とす。
ゾロは舌先でそこをつついた。
「あ」
サンジの声に動きを止めて向き直るゾロ。
「悪ィ。嫌だったか?」
「違う…。ちょっとビビった…だけ」
「そうか…ビビらしちまったか。ごめんな、止まんなかった」
「あ、謝るなよゾロ!…俺のほうこそごめん…」
ゾロは少し視線を落としたサンジの頬を支えて、軽く触れるだけのキスをした。
くすりと笑うゾロ。
「あー、腹減った。おまえも食いてえけど、まずは飯だな」
「ゾロ?」
「サンジ。俺は焦らねぇよ。俺たちには時間がたっぷりあるよな?」
「…ゾロ。うん…ある」
「だろ?今日だってまだ一緒にいれる」
「そうだな!いれる。んじゃ、まず朝飯!」
「おう、頼む。プロだろ?楽しみだ」
「んー、ジジィが聞いたら蹴り飛ばされそうだけど…おまえ専用のプロコックってことなら…!」
にやりと笑ってキッチンに向かうサンジ。
ゾロは小さなため息を落として、もぞもぞとトイレに向かった。
少し長居した。
サンジが作った朝食は、ゾロの期待を裏切らないものだった。
トーストに厚切りベーコン、ほうれん草たっぷりのオムレツ、色鮮やかな温サラダにはサンジのお手製のドレッシング、搾りたてのフレッシュジュースまで付いて、まるで洒落たホテルのブランチだった。
ゾロは食後のコーヒーを飲みながら、ふうと、一息ついた。
「ごちそうさん!すげェ旨かった。やっぱプロだな、おまえ」
「おう、おまえの専属な!」
にやりと笑顔で返すサンジ。
ゾロはカップを置いて、サンジの頬にキスをした。
肩を揺らして、少し体をずらすサンジ。
「おまえ…、いつもそんななの?」
「ん?なにがだ?」
「その…なにかってーと、キスするじゃん」
緊張からか、サンジは瞬きを繰り返す。
ゾロは少し顔を引いて、サンジを見つめた。
口角が少し上がる。
「なに、もしかして、ヤキモチか?」
「はァ?ちっ、ちげーよ、アホ!そーいうんじゃねェよ!」
口をパクパクするサンジをゾロはテーブルに肘をついて頭を預け、ニヤニヤと観察する。
頬も目元も、じわじわと赤くなるサンジを嬉しそうに眺めているゾロ。
「…っ、だからー、」
「しねぇよ」
「え?」
「いつもしねぇよ。したことねぇ。おまえが初めてだ…自分からしたくなったのは」
ゾロが熱のこもった瞳でサンジを見つめる。
「うん。俺もだぜ。…ゾロ」
今度はふたりほぼ同時に唇を重ねた。
午後は、それぞれ用があって、別行動を取った。
夕方またサンジの部屋で過ごす約束をして別れた。
サンジは実家のレストランに顔を出して、明日のディナーの食材のチェックを手伝った。
顔を合わせたオーナーの祖父に早々に追い出されたが。
ゾロは剣道の道場に足を運び、恩師である師範の補佐として、指導の手伝いをした。
夕方サンジの手書きの地図を見ながら、奇跡的に1度でたどり着いたゾロはこれも愛の成せる技だと、確信をしたようだった。
ドアは開いていた。
ふわりと鼻に良い匂いが届いた。
エプロンをしたサンジが振り返る。
「おっ、迷わなかったか?おかえり、ゾロ」
「ただいま…おう、1度で来れた」
「ヘェ!そいつは奇跡だな!聞いたことあるぜ、超絶迷子癖!」
「超絶じゃねェ。それに奇跡でもねぇ」
「じゃあ地図だな」
「愛だろ」
「…………」
口をパクパクさせるサンジを笑いながら、ゾロは椅子に座った。
「…もう少しだ。待っててな」
「おう」
項が赤くなったのは、気のせいか?と頬を緩ませながら、ゾロはサンジを眺めた。
夕飯は和食だった。
所狭しと並んだ、目にも美しい料理がゾロの食欲をそそる。
「凄ぇな。俺の専属コックは」
そう呟いたゾロが、1つの料理に目を止める。
海鮮風ちらし寿司。
(えっ、俺の好物…たまたまか?あ、自分の誕生日を兼ねたのか)
料理をじっと見つめるゾロにサンジは笑顔を向ける。
「ゾロ。おまえ好きだろ?ちらし寿司」
「え、おまえ知ってたのか?凄ェ好きだって」
サンジは壁際のラックに視線を落とす。
何冊かの本が置いてある。
「あー。インタビュー…。おまえ、答えてたろ?好きなもん」
「あ、剣の道か。おまえ、読んだのか?」
「うんまあ。一応な、へへっ」
ゾロは目を細めてサンジを見た。
「ガキの頃から、試合に勝つとこればっかネダってた。嬉しいよ、サンジ…。いただきます!」
パンと両手を合わせて、ゾロは夢中で頬張った。
サンジも箸を持ちながら、ずっと嬉しそうに笑っていた。
「…ん……」
ベッドに腰掛けたまま、キスをするふたり。
舌が絡み合う音。
ゾロはサンジの髪に指を絡め、時々唇を離し、舌先で触れながら、耳にも息を吹き込んだ。
その度に、サンジの肩が揺れる。
それが堪らなく愛しくて、ゾロは唇と舌で繰り返しサンジを愛撫した。
堪えられなくなったサンジが、ゾロの胸を押してキスを止める。
「ゾロ」
「…なに?」
「ゾロはどうしたい?」
「…………」
「ゾロ…俺は…」
「サンジ、シャワー浴びて来ていいか?」
突然言い出したゾロに、首を少し傾げるサンジ。
じっと、ゾロの目を見る。
(ゾロ…こいつまた…)
「ゾロ、一緒に浴びよ」
「え?」
「いいじゃん!裸でシャワー浴びようぜ、ゾロ」
「おまえ、それ…」
動揺するゾロの肩を抱いて、顔を付けて、サンジはゆっくりと喋った。
「わかってる。俺たちはゆっくりでいいんだよな、ゾロ」
ゾロが声を出さずに頷く。
「俺も昨日の今日で、まだ夢ん中みたいに思う時があるよ…。心の準備もイマイチできてねぇし…違う準備もな」
「違う準備?」
「……あのな、昨日おまえ、言っただろ?次は俺を抱きてぇってよ。…そう言う準備だよ…ったく」
サンジの目元が赤らんだ。
ゾロは密着していた体を離して、サンジを見た。
「悪ィ。おまえばっかに考えさせて。そうだな、準備しなきゃな」
「おまっ、なんかやらしー面になってるぞ」
「当たり前だ!」
はははと笑いながら、ベッドを降りてふたりは浴室に向かった。
脱衣場なんかない。
浴室の横の洗濯機の前で、服を脱いだ。
昨日は、お互いに、目を逸らして見ないようにしていた。
照れ隠しに、せーの!で素早く脱いでいく。
「まるで、高校生、いやいや、ちゅーぼうのノリだな」
「いや、ちゅーぼうならストリップだろ」
全裸になったゾロが先に入る。
(背中、やっぱり凄ェ綺麗)
続いて入るサンジ。
ゾロはバスタブに入って、先にシャワーを浴びていた。
「お邪魔~」
「おう」
「狭ぇなやっぱ、ゾロ、もちっとズレろ」
「無理だ…くっ付け。一緒に浴びよう」
ゾロはサンジの腕を取って、向き合った。
目線が合う。
気まずさに、視線を落としたサンジの視界にゾロのモノが飛び込んだ。
「…ゾロ、…それ」
「ああ、気にすんな。昨日もこんなだ」
「気にすんなって…無理だろ…」
ゾロは視線を逸らしたまま目を閉じて、髪を洗っている。
サンジは一瞬息を飲んで、そっとゾロのモノに手を伸ばした。
ゾロがシャワーを浴びたまま、片目を開ける。
「おい!サンジっ!」
「ゾロ、俺がヌいてやるよ。ヌきっこしよう、ゾロ」
サンジは真面目な顔でゾロを見ながら、そう言った。
ゾロはシャワーを止めて、サンジの腕を掴んだ。
「なら、俺からやってやる」
「…駄目だゾロ。そしたらおまえに出来なくなる。俺、初めてだし、慣れてないからきっと…」
ゾロはサンジの言葉を遮るように、掴んだ腕を引き寄せた。
「おまえ…初めてなのか…?」
「…まーな。自分でしかヤったことねェし」
ゾロはじっと、サンジを見つめる。
あまりの視線にムッとするサンジ。
「…なんだおまえ、バカにしてんのか?そりゃー、おまえ程はモテてねぇし!休みはねぇし、そんな暇…」
ゾロはサンジを抱き締めた。
「…っ、ゾロ?」
「バカになんかするわけねぇだろ!サンジ…嬉しいよ」
「…そうか?そりゃ…良かった。はは、まぁ、ファーストキスも好きなやつとできたしな、へへっ」
「…!」
サンジと合わさったゾロの胸が一瞬、跳ねた。
そして。
「ゾ、ゾロ…なんか…さっきより…堅ェ」
「…おまえが喜ばすからだ」
サンジは少しゾロに睨まれた。
狭いバスタブに向かい合って座っている。
膝を立て、できるだけ体を密着させる。
シャワーの蒸気とふたりの熱い息で少し視界がボヤける。
サンジはゾロのモノを両手でシゴいている。
ゾロは眉間にシワを寄せ、時々腰を浮かす。
少し苦しそうなゾロを見て、サンジは舌を出して顔を下げた。
「サンジ!しなくていい!」
ゾロはサンジの頬を両手で挟んで顔を上げさせた。
サンジの目が潤んでいる。
「サンジ、そんなことはしなくていい。その代わり、おまえのを触らせて欲しい」
「ゾロ…」
「触っていいか?」
「…いい」
ゾロはサンジのモノをゆっくりヌきだした。
サンジはすぐに、喉を反らして息を荒くした。
はっはっはっ…
サンジの息につられるように、ゾロも息をする。
「ゾ、ゾロ…ゾロ、俺もう…」
「サンジっ、俺のも触ってくれ」
「…うん」
ふたりで同じ息でヌき合った。
「サンジ、目を開けろ。俺を見ろ」
サンジは閉じていた瞼を開けてゾロを見た。
「ん……あ…ゾロっ」
「サンジ、一緒に」
ゾロは、サンジの手を取って、ふたりのモノを合わせた。
サンジの手を包むようにして、激しくヌいた。
ふたり、ほぼ同時にイった。
目を合わせたまま。
あれからふたりでふざけながら、洗い合って、初めてのヌきっこは終了した。
今はベッドで手を繋いでいる。
「じゃあ明日は早いんだな」
「ああ。明後日から、新入生の歓迎会を兼ねた合宿がある。早めに帰らねェとな、準備もあるし」
「そっか、本当なら今日のうちに帰るはずだったもんな…ごめんな」
「バーカ。俺がいてェんだって言っただろ」
「うん。ありがとう。今年の誕生日は忘れられねェよ、ゾロ」
「来年もそうなる」
「そっか。来年も…だな」
「ああ。その前に俺の誕生日だってあるぜ」
「あー。ゾロ目!」
「…また、剣の道か?」
「ビンゴ」
ゾロはサンジの前髪を上げて、額にキスをした。
両方の瞼にも。
サンジもゾロの鼻にキスをする。
「誕生日終わったな。何もあげられなくてごめんな」
「おまえとの時間、貰ったぜ。ファーストキスも」
「ファーストヌきっこもな」
サンジはゾロにデコピンした。
「いてーな」
「恥ずいことゆーからだ!」
「恥ずかしくねーだろ。愛だろ」
「おまえが恥ずかしいわ」
言いながら、サンジはゾロに抱きついた。
背中に腕を回す。
(もう背中ばっかじゃねぇんだな…。でもやっぱ、好きだぜ…おまえの背中)
「サンジ」
「ゾロ」
呼び合って、またキスをする。
これから時間はたっぷりあるのに、一秒も無駄にはしたくない、ふたりだった。
end