『青い糸』

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わたしがZS小説にハマりだした頃に妄想した学パロをダイジェスト版で書きました。
そして、AFTERWARDS―その後。

ゾロに言わせたかった台詞。
そこだけまず考えました。

「おまえを、泣かせたかった」

これですね!(///ω///)♪
この為に書いたお話です。

いつも楽しくて、優しいkoma さんへ♪
並びに、素敵なふたりのお話を、私に分けてくださる愛しい作家の皆さんへ―感謝を込めて♪

べるき*
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『青い糸』

 

 高1、男子校の入学式――
 サンジはグランドで一人の男を見つける。
 桜の木の下、見上げている、緑色の髪。
 
 (スゲー緑…ピンクの花びらとなんか合ってんな…)
 
 なぜだか、見入ってしまうサンジ。
 学ランを着た男子高生達が、サンジの横を過ぎて行く。
 
 「おーい、サンジ~。何止まってんだー?」
 「…!おう、ウソップ。てめェを待ってたんだよ!」
 「あ~、わりィ…あれ?あそこにいるの、ロロノアじゃん!あいつもここかよ!」
 「おまえ…知ってるやつ?」
 
 ウソップ曰く、ロロノア・ゾロは中学生で剣道での全国制覇2回、それと端正なルックスも合わさり、すでに地元ではかなりの有名人だとか。
 剣の道―というコアな雑誌にも載ったことがあるらしく。
 当然ヤローに興味はなく、実家のレストランの手伝いに明け暮れていたサンジには全くの初耳で。
 
 入学式の体育館。
 並んだ列の前にゾロが座っている。
 
 (げ。同じクラスかよ…ってなんでドキドキしてんだよ俺。剣道かぁ…背中綺麗に伸びてんなこいつ)
 
 入学式を終えてクラスに向かう生徒たち。
 教室に入り、黒板に貼ってある、席順を見て席に着くサンジ。
 グランドに面した窓側の1番後ろに座るサンジが、ドアから入ってくるゾロを見る。
 ゾロは廊下側の真ん中辺りに座った。
 
 (いた…ロロノア…だっけか。ヘェ、さすが有名人。皆見てんなー、なんだかムカつくぜ)
 
 ゾロは回りの視線を気にも止めずに教室内を1度、見渡した。
 
 (誰か探してんのか…)
 
 ふとゾロの視線が止まる。
 ゾロと目が合うサンジ。
 心臓が跳ねるのを感じて、思わず目を伏せるサンジ。
 
 (目、目が合っちまった…!俺の視線、感じやがった?…ヤバ…)
 
 居たたまれない自分に恥ずかしくなるサンジ。
 目線を上げたときにはもうゾロは前を向いていてサンジはホッした。
 
 (ヤベ。俺ヤバいじゃん!なんだよこの感じ…どうなんの、俺…)
 
 サンジはゾロに一目惚れだった。
 なぜ?相手は男なのに…考えてもわからないので、考えないことにした。
 
 同じクラスになって1度だけ、サンジとゾロは席が前後になった。
 サンジはゾロの綺麗に伸びた背中を後ろの席からいつも見ていた。
 
 ゾロは全学年から注目されるほどの有名人。
 男子校にもかかわらず、モテっぷりも半端ない。
 さすがに面と向かって告白こそはないが、憧れを、いや中には恋心を抱いているであろう、男子たちも、きっと少なくはない。
 そして時には他校の女子高生からも、告白などを受けているらしかった。
 
 サンジはそんなゾロを遠巻きに見ているだけで。
 
 ゾロの後ろの席に座るサンジ。
 相変わらず、綺麗に伸びた背中を見ている。
 突然振り返ったゾロに驚くサンジ。
 
 「……!」
 「…?おいこれ」
 「え?……あー、サンキュ」
 
 前から回ってきたプリントを渡すゾロ。
 ふと視線をサンジの手に落とす。
 
 「おまえそれ…怪我したのか?」
 「?あー、これな。火傷だよ。…俺さ、家の手伝い…あー、レストランなんだけどさ。んで鍋に触っちまって…こんなのしょっちゅう。こっちは切り傷。これでも減ったほうだせ、はは。つーか、おまえの指もすげーじゃん!なんだ…剣だこっつーのか?これ…」
 
 思わずゾロの指に触ってしまったサンジ。
 
 「ご、ごめんっ!つ、ついなっ…すげーから…悪ィ。」
 「別に…。おまえのそれと一緒だな」
 「え?」
 「お互い目指すもんのために、必死ってことだろ」
 「……おう!だな!お互い頑張ろーぜ…へへっ」
 「ああ」
 
 (ヤベ…俺、絶対こいつが好きだ…!どうしよう…。どうしようもねぇよ。どうしようも…。)
 
 少し傷む胸を、そっと押さえるサンジ。
 また背中を見つめた。
 
 ある日、ゾロの学ランの第2ボタンがぶら下がっているのを見つけるサンジ。
 
 「おい、ロロノア、おまえボタン取れそうだぜ」
 「…ああ。大丈夫だろ」
 「…おい、なくすぜ?それに大事な第2ボタンじゃん!」
 「?なにが大事なんだよ」
 「はっ、知らねーのおまえ!第2ボタンつったら、卒業式に、一番愛しちゃってる子にあげるもんだろが!」
 「……………」
 
 (聞いてねーし)
 
 「おい、脱げよ。仕方ないなぁ…俺様が着けてやんよ…感謝しろよ」
 「おまえ、そんなもん、いつも持ち歩いてんのか?」
 「あったりめーだ!男は身だしなみだろ!ったくよー、少しは努力してみやがれってんだ」
 「…じゃ、頼む」
 「…おう」
 
 サンジは青い糸でゾロの第2ボタンを着けてあげた。
 これが、ゾロと接した1番の思い出。
 
 剣道、レストランの手伝いとそれぞれ忙しく、特に接点もないふたりは、席替えと共に自然に離れて行く。
 
 あっと言う間の3年間。
 あれからゾロとは、クラスも別れて、たまにすれ違い様に挨拶を交わすくらいで。
 
 卒業式――
 クラスが違い、サンジの斜め前にゾロが座っている。
 
 (相変わらず背中ばかり見てんな俺。あいつ、県外の大学に推薦で行くってウソップが言ってたな…もう会えねェだろうな…それなら…)
 (あれ、俺泣いてる…?)
 
 卒業式が終わって、グランドで別れを惜しむ生徒たち。
 サンジは友達にまたな、と言葉を交わしてゾロを探す。
 自分の第2ボタンを握りしめて。
 
 (どうせ最後だ…ちくしょー、当たって砕けろだぜ!)
 
 (いた…!)
 
 あのサクラの木の下にいるゾロ。
 初めて見たときを思い出すサンジ。
 でもその回りにはたくさんの生徒たち。
 同級生、下級生、剣道の後輩たち。
 ゾロを囲んで泣いたり真っ赤になったり。
 
 遠くから見ているサンジと一瞬目が合うゾロ。
 
 (今、俺のこと見た…?よし…)
 
 歩き出そうとして…。
 
 (…!あいつ…ボタン1個もねェじゃん…もうあげたのか…。いや、最初から外してたのかもな…)
 
 チラリと正門を見ると、リボンを巻いた筒を持った女子高生が何人かで、ゾロのほうを見ている。
 
 思わず俯いてもう一度見たときには、ゾロは校長や部活の顧問、おそらく大学の関係者に促されて歩き出していた。
 
 サンジは、薄く笑顔を見せた。
 
 (…バイバイ、ゾロ…頑張れよ!)
 
 サンジは正門に向かって歩き出す。
 ボタンを握りしめたまま。
 
 あれから1年。
 サンジは調理の専門学校に通いながら実家のレストランを手伝っている。
 そして今日は卒業以来初めての同窓会。
 3年で同じクラスだったウソップが幹事だ。
 
 クラスの違うゾロは当然いない。
 
 「お~、サンジ~、こっちこっち!」
 「よぉ、ウソップ!幹事ご苦労さんな!」
 
 ゾロと同じ県外の大学に通うウソップとは半年ぶりだ。
 お互いの近況を話していると店のドアが開く。
 
 ざわめく店内。
 
 「おーい!ゾロ!良く来たなぁ!」
 「…………」
 
 呆気に取られるサンジ。
 
 (なんであいつが…?)
 
 「あ、サプライズゲスト!俺さ、あいつの大学と住んでるとこが同じ駅でよォ。驚いて声を掛けたら俺のこと、知っててよ。 たまーに、偶然会うと飲みに行ったりして、最近は結構仲いいんだぜ。そんで幹事の特権で違うクラスだけど声をかけたってわけ。ゾロ、あっさりOKしたぜ。ほらあいつ有名人じゃん。会いたいってやつ、結構いるんだぜ!」
 「ふーん…」
 
 ゾロは声をかけたウソップと隣にいるサンジを見て、軽く手をあげた。
 
 「あれー、ゾロのやつ、あっちに座るんか。知り合いか…まぁいいや、その内来んだろ。食おうぜサンジ!」
 「…おう」
 
 結局ゾロはサンジに背を向けて離れた席に座ってしまった。
 
 サンジを1度も見ることはなく。
 
 「ウソップ、悪ィ。俺そろそろ帰るわ。明日も早えんだわ」
 「えー、仕方ねぇなぁ…サンジは料理が1番だもんなぁ。俺、日曜までいるからよ。連絡するわ」
 「悪ィ。今日はありがとな…!」
 
 席を立つサンジ。
 ゾロの背中を見ながら店を出る。
 
 (ま、こんなもんだろ…あいつとはたいして親しくもねェし。…また背中だけだったな)
 (あれ…?俺、泣いてる…?)
 
「サンジっ!」
「…?!」
 
 突然肩を掴まれるサンジ。
 驚いて振り返るとそこにはゾロがいる。
 
 「…なんで……」
 「ごめん、サンジ」
 「え…?」
 「おまえを、泣かせたかった…」
 「……なに…?」
 「俺のために泣く、おまえを見たかった…ごめんな、サンジ」
 
 ゾロはサンジの頬に触れる。
 そっと涙を拭く。
 
 「ゾロ……俺、わかんねェ…」
 「…おまえさ、卒業式のとき、泣いてたろ?」
 「…なんで、それ…」
 「俺、見てたんだ、振り向いたらおまえが俯いて泣いてた…なんか嫌だった、おまえが誰かのために泣いてる気がして」
 「ゾロ」
 「だから、今日はおまえを泣かせたかった、俺だけのために泣くおまえが見たくて…わざと冷たくした…。今おまえは俺のせいで泣いてるのか?そう思っていいか…?」
 
 サンジの涙は止まらない…でもしっかりゾロを見つめている。
 
 「サンジ…これ」
 
 見つめる先には、掌に乗せた金のボタン。
 それには青い糸がついたまま。
 
 「ゾロ、これ…」
 「自惚れてもいいか…?最後の日、おまえと目が合った。おまえはこれを欲しがってるように見えた。でも渡す前におまえはいなくなってしまって…探したんだ、でもどこにもいなかった」
 
 サンジはそっとボタンを手に取った。
 
 「うん、欲しかったこれが」
 「そっか…サンジ…!」
 
 ゾロはサンジを抱き締めた。
 サンジもそっとゾロの背中に触れる。
 ずっと見つめてきた背中に。
 
 「ごめん、もう泣かさないから、サンジ」
 「うん…。ゾロ、おまえ、この後は?」
 「…おまえといたい」
 「ゾロ、うちに来るか?」
 「いいのか?」
 「うん、来てほしい。そして俺も渡したいものがあるんだ、ゾロ。1年前に渡しそびれたもの」
 
 サンジを見つめて頷くゾロ。
 もうサンジは泣いていない。
 ふたり笑って真っ直ぐ歩いて行く。
 
 end
 

→『青い糸‐‐sideゾロ』