とある県立男子高等学校の入試試験会場である教室にロロノア・ゾロはいた。
2月、春にはまだ遠いような寒い日。
緊張で張り詰めた教室に物音が響いた。
ゾロが思わず振り返ると、一人の男子が床に伏せている。
転んだらしく、回りに筆箱とペンが転がっている。
皆一斉にそっちを見たが、あとは見て見ぬ振りと言う感じ。
(仕方ねェよな。この状況じゃ他人事だ)
ゾロは椅子を引いて席を立とうとした。
その時。
「おい、大丈夫か?怪我してねェ?」
声をかけた、金髪の男子に目が行くゾロ。
金髪は、転んだ男子の腕を引いて立ち上がらせた。
座り直したゾロはじっと様子を見ている。
(なんだ、知り合いか?…ん?ちげーな…制服が)
「せんせー。この人の消ゴムどっか行っちゃったみたいですー、俺の貸しますねー」
不正なものではないと、アピールするように金髪はそう言った。
金髪の名前はサンジ。
(お人好しっつーか、余裕か?…余裕じゃねェな。お人好しだ)
ゾロはサンジを見ていた。
試験開始の声がかかるまで、ずっと。
(あんなのがいたら、面白れえな。こん中でたった一人だな。…一人だ)
ゾロは無事に合格した。
貼り出された番号を見ながら、あいつはどうだ、と、頭の中で呟いた。
ゾロはサンジが忘れられない。
何故かはわからない、わからないから、そのままにすることにした。
4月、男子校の入学式――
ゾロはグランドにある桜の木を見上げていた。
右手でそっと、木を触る。
ゾロは神やその類いのものに、祈ったことはない。
中学生での剣道での2度の全国制覇も、全て自分の努力で手に入れた。
これからももっと上を目指す。
自分の努力で。
そう決めていた。
そのゾロが、桜の木に、願掛けをしている。
(あの金髪。また会いてェ。会えますように…頼む)
近くで話声が聞こえた。
ロロノア・ゾロ。
自分の名前を言っている。
気にも止めずにまだ桜を見上げているゾロ。
その脇を、鼻の長い男と、キラキラ光る金色が通り過ぎて行く。
目で追った
ゾロにはスローモーションだった。
感じたことのない、胸のしめつけに、泣きたくなった。
(なんだよ。…なんだよこれ)
もう1度桜を見上げるゾロ。
「なんだよこれ」
今度は口にしてしまった。
ロロノア・ゾロの初恋のお話。
end
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原作のゾロと同じようないじめっ子気質を持っていながら、でもとってもとっても優しいゾロと、そのゾロと同じ位、いやそれ以上に優しいサンジさんの、可愛らしくも甘酸っぱいお話……!本当に好きな人には気軽に話かけられない。思いが強すぎて、どうしていいのか分からない。すごく気になっているのに特別な触れ合いがほとんどない高校生活というところが、相手への気持ちの大きさを表していて、何かきゅーんとします。しかし、ゾロサンは運命。出会ったら結ばれるのが運命。末永くお幸せに……!べるき*さんのゾロサンを頂けて、私も幸せ。ありがとうございますー!