『暗躍の腐女子』

 

タエとマヤには共通の趣味があった。あんまり人前でおおっぴらにする様な趣味ではない。

 タエは、後輩のサンジと取引先を訪問した際、そこの受付嬢マヤが同じ趣味を隠し持っていると推察した。可愛らしいマヤにメロメロしたサンジがあれやこれやと話し掛け、サンジは気付いていない様だがやや迷惑気に答えるその端々から、それを感知したのだ。タエの勘は外れた事が無い。
 タエはサンジの目をかいくぐり、マヤに連絡先を渡した。同好の者だけに分かる、秘密の数字を添えて。
(飲みに行きましょう!)
 タエは目に力を込めた。
 不思議そうにタエの顔と差し出されたカードを見たマヤは、秘密の数字に気付いたらしい。目がきらりと輝いた。
(語り合いましょう!)
 マヤの目が、タエにそう訴えた。
 その日のうちにマヤはタエに連絡し、その日のうちに二人は飲みに行き、語り合い、意気投合した。

「やだ、あの人」
 マヤが眉を顰めた。
 タエがマヤの視線の先をたぐると、そこには一人の男が仁王立ちしていた。
「今日、会社の前にも居たんです」
 マヤは声を潜める。
「タエさんと、あの…サンジさん?って言ったかしら、ちょっと頭の軽そうな…ごめんなさい、タエさんの後輩を悪く言って」
「良いのよ、あの子、確かにちょっと頭軽いの。悪い子じゃないんだけどね、若くて可愛い女の子前にするといつもあんなで。気持ち悪かったでしょ、ごめんね?」
「良いんです、あれだけ格好良い人にチヤホヤされて、悪い気はしないし…確かに、ちょっと気持ち悪いですよね、黙ってれば本当、格好良いのに勿体無い」
「ね」
「ちょっと“あの子”に似てますよね」
「そうなのよ、でさ、あそこで睨んでる人、“あいつ”に似てない?」
「言えてる!」
 話は脱線した。屈強そうな強面の男に睨まれているというのに、暢気なものだ。
「で、お二人がいらしてた時、受付をじっと見てたんです」
 一頻り笑って、マヤが本筋に戻ると、男はのしのしと二人の席までやって来て、言った。
「おい、あの金髪をどうにかするには、どうしたら良い」
 タエとマヤは丸くなった目を見合わせた。タエの髪は黒く、マヤの髪は焦茶だ。
「あの金髪、ってのは、今日私と会社訪問をしていた長身の男性、の事でしょうか?」
 タエは訊いた。
「そうだ」
「どうにかする、って、のは、その、恋愛的な意味、ですか?」
 マヤは訊いた。
「…そうだ」
 男は僅かに頬を染めた。不遜な態度と裏腹に、実は結構純情なのではないだろうか。

 タエとマヤの大好物である。

「まあお座りなさいよ」
 タエは自分の隣の席を男に明け渡した。
「ビールで良いですか?」
 男が首肯くのを確認すると、マヤはジョッキをオーダーした。

 カップルシートにまつわる捏造都市伝説をサンジに吹き込んだタエは、ついでの様に言った。
「あそこの受付嬢、満更でもなかったみたいよ?」
 サンジからのお誘いを受けたマヤは、どうしてもヘアスタイルが決まらなくて、約束の場には行けないだろう。

 ほんの少し胸が痛まない気がしないでもない。でも大丈夫。
 タエの勘は外れた事が無いのだ。

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タイトル『暗躍の腐女子』あるいは『秘密の数字は”1132”』
これをパパッと書き上げてしまうって、本当にすごい才能ですよね。
そしていかつい見た目に反する純情青年、ワタクシも大好物です!
utaeさん、ありがとう!!