『じっくりことこと』

 

コックは寝起きが悪い。
 もちろん嵐だとナミが呼べばすぐ甲板に飛び出ているし、敵襲があれば数秒も経たないうちに数人蹴り飛ばしている。
 だが、普段は、ゾロがちょっと呼んだり、体を揺すったぐらいでは、瞼を開こうとしない。せいぜい「ん……」と小さく抗議をするぐらいのものだ。その声はちょっと色っぽかったりするので、嫌いではない。当然。
 今夜も、コックはぐっすりと眠りについている。暗闇の中で白い肌がほんのり発光しているように見えて、ゾロはたまらず手を伸ばした。眠る頬はいつもより少しあたたかい。するすると撫でると、気持ちよさそうにふにゃりと口元が緩む。やわらかな耳たぶにくちびるを寄せると、吐息でふるっとふるえた。かわいい。
 コックは意地を張って絶対に言わないが、ゾロの低めに出した声が好きだ。意識して、低い声で囁く。
「襲うぞ」
 コックは少しだけ瞼をこじ開けて、そこにいるのがゾロだと認めると、ぼんやりと甘えた調子で「イヤ」と言った。
「今日は眠いからやだ。煮込み襲うなよ、ヘンタイ」

「イヤって言ってもな。煮込み襲ってんのは、ルフィだぞ」
 それで、コックは跳ね起きた。
 さすがの言い間違いだ。いや、コックのくせにと言うべきか?
 鍋にはじっくり煮込んだ塊肉が寝かせられている。食料泥棒がいまだに現れるサニー号だ、無論、鍋と蓋にはしっかりと錠がかけられ開けることはできない。だが、ルフィならいざとなれば鍋ごとでも食べるだろう。
 ゾロは、キッチンにとんで行ったコックをのんびりと見送った。戻ってきたら、寝込みの前に襲おう。ぷりぷり怒って興奮しているから、きっとほどよく色づいて、食べごろになっているはず。楽しみだ。

 

 

  

15/11/06 (Fri) 0:32

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酒菜あみ様が管理人の言わずと知れた素敵ゾロサンテキストサイト『Honey Leaf』さま内にあるphoto diary≪ときめきの居場所≫。2015年11月8日(金)に、こちらのお話が掲載されていたのです。ん?これは、もしや……と思って読み進めると、最後に「Bのkさまの病弱なカレーが美味しそうだったので。」と書いてあります。即座に「欲しいです!」と臆面もなく申し上げたところ、ありがたいことにご許可いただいたので、早速もらってきてしまいました。今年3月の鮭に引き続き、拙宅の日記ネタが、こんなにも愛らしいお話になるなんて、一体どんな魔法なんだろうと思います。投稿時間も愛がありますよね。大好きです。あみ様、どうもありがとうございました!