『待つとしきかば』

 

「引越しも出来やしねえ」なんて愚痴でも言ったら『好きにすれば良い』とか言うんだろうな。何食わぬ顔で。
それを現実と知りたくないおれは、アイツに何も言えないでいる。
「待つのは自由だもんなァ」
出かけるのも帰るのも自由なアイツには、お似合いだろ。
手の中の紙切れをくしゃりと握り、アイツ不在の日々を始める。アイツが戻らない心づもりと、まつとしきかば、の呪文を共に。

 

一区切りつく度、足が向くあの場所を次に訪ねた時。扉を叩いて顔を出す家主がアイツであるという保証など、どこにも無い。
『引越しも出来やしねえ』などと愚痴でも言われたら、おれはきっと「好きにすれば良い」とでも言うんだろう。何食わぬ顔で。
「待て」とも「待つな」とも言えないでいる。どちらにするもアイツの自由だと、思いたいが為。
扉を叩く拳が震えている事を、アイツは知らない。扉を叩くまでの恐怖を、アイツは知らない。迎え入れるアイツの顔に安堵を見て、おれがどれだけ安堵するかなど。
それでもおれは、アイツの元に留まれない。ただ、アイツの元に帰る。待っていると、思いたいが為。

 

2015/4/1

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opzs.kesagiri.net のutae様から、拙作『まつとしきかば』の感想ということでコメントをいただいたのですが、感想の域を超越してますよね!立派な作品だよね!受け取ったからにはもらっちゃうもんね!と飾らせていただくことに。「感想ではなく妄想」と仰られてましたが、妄想ウェルカム!拙作で妄想していただくのは光栄の極みです。作者冥利に尽きます。utae様、いつもありがとうございます。これからもお待ちしております(←!)。